管理人黒峰の日々の徒然。
主に視聴アニメやらでの叫びなど。なんだかんだうだうだ言ったり空元気でテンション高かったり色々!
ずいぶん前に書いていた七霊小説の連載です。記事の日付はおおよその執筆時期です。
古いものなので、掲載に辺り多少加筆修正しました。(※加筆修正2011/6/17)
テイトが司教試験前のある日突然小さくなってしまうお話です。
ハクテイ…というか、管理人が激しくハクレン好きなので、彼に美味しい思いをさせてあげよう、といった趣旨の作品です。どや。←
友情以上のつもりはないですが、原作ぐらいの気持ちで仲良しです。
ハクレンの一人称形式で進んでいきます。
フラウ・ラブ・カストルの三人も出てきます。コメディ要員で。←
テイト総受けみたいかもしれませんが、ただの子ども好きともとれるレベルです。
戦友としてハクレンも目立たせてやってくれよ!という同志様大歓迎ヽ(´∀`)ノ
古いものなので、掲載に辺り多少加筆修正しました。(※加筆修正2011/6/17)
テイトが司教試験前のある日突然小さくなってしまうお話です。
ハクテイ…というか、管理人が激しくハクレン好きなので、彼に美味しい思いをさせてあげよう、といった趣旨の作品です。どや。←
友情以上のつもりはないですが、原作ぐらいの気持ちで仲良しです。
ハクレンの一人称形式で進んでいきます。
フラウ・ラブ・カストルの三人も出てきます。コメディ要員で。←
テイト総受けみたいかもしれませんが、ただの子ども好きともとれるレベルです。
戦友としてハクレンも目立たせてやってくれよ!という同志様大歓迎ヽ(´∀`)ノ
「………なんだコレは」
ある朝、目が覚めると、戦友の姿がなかった。
司教見習い子育て奮闘記!
差し込む朝日の眩しさに目を覚まし、ゆっくりと身を起こした。
今日も司教となるべく、神に仕える一日が始まる。
……はずだったのだが。
「テイト?まだ寝てるのか?そろそろ支度を……」
乱れた髪を指で梳きながら、戦友が眠っている隣のベッドに目をやった。
だが、そこにテイトの姿はない。
以前から夜中に黙って抜け出すこともあれば、早朝から一人で自主練に行ってしまうことも少なくなかった。
だから、これが普段通りであれば、さして心配することもないのだが……。
覚醒したばかりで、寝惚けているのだろうか?
テイトの姿が見えない代わりに、シーツが不自然に盛り上がっているように見えた。
いくら小学生呼ばわりしてしまうような身長のテイトでも、あの中で丸まっているとは想像し辛いぐらいの大きさの山。
しかし、テイトの連れのドラゴン、ミカゲにしては大きいような。
…というか、考えるまでもなくミカゲはオレの頭に乗って、呑気に欠伸をしているわけだが…。
となると、一体何が入っている?
「ブルピャ!」
「…お前はあの中身、知ってるか?」
何故かとてつもなく嫌な予感がして、思わずミカゲに問い掛けた。
開けてしまえば、間違いなく今日一日、面倒に巻き込まれそうな予感がひしひしと。
だが、いつまでもこうして睨んでいるわけには……
もぞもぞ
…………うっ、動いたぞ!?今確実に動いたよな!!?
しーん…
なんだ…何なんだ一体…!!
母様…!これも司教になるための試練だというのですか…!?
「い、いいか……動くなよ」
意を決し、ベッドを降りた。
その拍子に落ちそうになったミカゲを腕に抱き直してから、数歩歩き、手を伸ばす。
テイト、頼むから早く帰って来てくれ。
「すー…」
「………ただいまぐらい言ったらどうだ」
シーツに埋もれていたのは、気持ち良さげに寝息を立てるテイト=クラインだった。
……おそらく。
「………なんだコレは」
ベッドに転がっている人騒がせな物体は、おそらくはテイトだった。
何故かあいつのコンプレックスである身長が更に縮んで、おまけに幼い顔つきをしている。
けれど、張りのある暗めのブラウンの髪と、この面影は間違いなくテイトだ。
見た目から察するに、五歳くらいだろうか。
むしろ違和感を覚えると言えば、毎日のように魘されている奴だとは信じられない、なんとも平和そうな、幸せそうな顔をして眠っていることぐらいだ。
それくらい、テイトとこの子どもは酷似している。
「…まさか、テイトの弟…?」
これでも信じ難い目の前の現実に、ポジティブになってみたつもりだ。
「ブルピャ!」
しかしそんな現実逃避を許さぬように、ミカゲが飛び降りて子どもの頬に擦り寄る。
すると穏やかな寝顔がくすぐったそうにさらに緩んで、目覚めることもないままミカゲをきゅっと抱き締めた。
か、可愛い……いやいやいや。
なんというか、父性本能のようなものをくすぐられたというか!
…なんて一人で焦っている場合ではなく。
こんなにぐっすりと眠っているところを邪魔するのは忍びないが、事態を把握せねばならない。
この子どもがテイトであるにせよないにせよ、確かめないことには始まらないのだから。
「おい…」
「んー…」
軽く揺すると、まるでイヤイヤと言うようにミカゲごとぐるりと寝返りをうたれてしまう。
少し罪悪感が襲って来る。
「……起きろ」
「…ん……ぅ…」
こんなに安心した顔をして眠るテイトを、オレは見たことがない。
テイトではないとしても、似過ぎた顔が罪悪感を生ませる。
やはり自然に目覚めるまで、待ってみようか?
「……テイト」
「ふぁ…?」
「!」
思わず零れた名前に反応したのか、子どもの瞼がゆっくり持ち上がった。
現われた翡翠色の瞳は、やはりテイトのそれにそっくりで。
「…テイト、なのか?」
「…?ふぁーざー?」
「お前……」
「おいクソガキ!ハクレン!起きてるか?」
急に扉の外からフラウ司教のお声がした。
やはりこの方は困っている者を助けてくださる、司教の鑑だ。
「フラウ司教!おはようございます」
「おう、そろそろ朝餉の時間終わっちまうぜ?何やってんだ?」
急いで扉を開けると、些か面倒くさそうな顔をなさっている司教が立っていた。
今日も司教服を完璧に着こなしておられる。
「…ん?テイトはどうした?」
「いえ、それが…その…」
事態を説明すべく、ベッドを振り返ろうとすると、重みを感じて足元を見れば。
「……………」
いつの間に起き上がったのか、小さな眉間にシワを寄せたあの子どもが、これはまた小さな手で、オレの足にしがみついていた。
子ども特有の大きな瞳を閉じたテイトそのものの顔を、不安げにオレの服に押し付けてくる。
「どうした?」
「………」
そっと顔を出して警戒するような目線を追えば、それはフラウ司教に続いていて。
「…大丈夫だ」
そう言って頭を撫でてやれば、こちらを不思議そうに上目で見る。
警戒を緩めたのか、小さな両手は撫でられた頭を確かめるように服から離れた。
「…………ハクレン」
「あぁ、司教、これは」
「その…なんだ、テイトには言わないでやるからよ」
「は?」
「あの陰険メガネが作ったのか?よく出来てんなー」
訝しげな顔をしたフラウ司教は、何やら見てはいけないものを見た顔をなさっている。
……ん?作った?眼鏡…カストル司教が?何を?
「いや、まさかお前がそんな趣……いやいや」
「?」
「俺は気にしないぜ。ハクレンがたまたま持ってた人形が、たまたまテイトそっくりで、たまたま子どもの姿だったとしても」
「え…………えぇっ!!!?なっ、違…!!」
「違う?もしかしてお前が作ったのか?確かにお前は器用だと思ってたが…」
「いや、そこではなくて!」
多大なる勘違いをなされた司教は言いながら腰をかがめ、この子と目線を合わせる。
そうすれば案の定、逃げるようにまたオレの後ろに隠れてしまった。
「誤解です司教、この子どもはカストル司教のシスター人形の類ではなく…!」
「私がどうかしましたか?」
「そんな所で何してるの?」
次から次へと。
そんな言葉がぴったりな程、カストル司教とラブラドール司教がタイミングよくいらっしゃった。
「いや、なんでもねぇよ。な?ハクレン」
まだ恐ろしい勘違いをしているらしいフラウ司教は、お優しいことにお二方から子どもを隠そうとなさっていた。
いや、ですから、違うのです司教。
「?どうしたんですフラウ」
「あれ?その子……」
だがフラウ司教の親切も虚しく、少し顔を覗かせたこの子をラブラドール司教が見つけてしまった。
「おや…テイト君にそっくりですね…?」
「なんだ、やっぱお前が作ったんじゃねぇのか」
「私は男の子の人形を作る趣味はありませんよ」
「……ってことは」
あぁ、またしても誤解されてしまう…!
「あのっ、司教…!」
「あー、やっぱり昨日のアレ、間違えちゃってたんだねぇ」
弁解すべく口を開くと、間延びしたラブラドール司教のお声が重なった。
いつもの笑顔で、腰を屈めるラブラドール司教。
人柄のなせる業なのか、先程のフラウ司教の時とは違い、この子が警戒する様子はなかった。
「き、昨日のアレとは?」
「昨日の夜、教会内を巡回していたら偶然テイト君に会ってね」
やっぱり抜け出してたのか。
「それで?」
「喉が渇いたから水を飲みに行こうとしてたみたいだったんだけど、寝起きに冷たい水は良くないから、僕の部屋でお茶を淹れてあげようとして…」
水なら部屋にも置いてあっただろうが。
「…して?」
「調合したジャムを間違えて入れちゃった」
ジャムを調合!?調理じゃなくて、調合!?
「本当は安眠の効果があるジャムを入れてあげようと思ったんだけど、取った瓶が隣に置いてあった実験用のジャムだったみたいで」
い、一体何の実験なんだ…!!?だが絶対に聞いてはならない気がする…!
「朝起きたら中身が減ってたから、おかしいなって思ったんだよねぇ」
「んな軽く言うなよラブ」
「…ということはつまり、このテイト君にそっくりな子は……」
「うん、僕の薬を飲んで縮んじゃった、テイト君本人だね」
司教お三方とオレに一斉に見られ、たじろいだコイツは本当にテイトらしい。なんて悪夢だ。
「…って、本当にそんなこと起きんのか?」
「起きちゃったんだから仕方ないよ。」
あっさりと切り捨てたラブラドール司教に溜め息をついて、フラウ司教はテイトを見た。
「お前、名前は?」
「ティア……テイト、クライン」
いよいよもって信じざるを得ない自己申告だった。
「あれは本来少しの間だけ細胞の成長、つまり老いを緩めたりする身体能力の増強の薬だったんだけど…」
「若返りすぎだろ」
「ミカエルの瞳を有しているテイト君だからこその副作用かもしれませんね」
大の大人(しかも三人)に見つめられて、さすがのテイトも瞳を不安に揺らせた。
またオレの足にしがみついてくる。
「大丈夫だ。この方達はお前に何もしたりしないから」
「…ほんと?」
テイトの過去についてまだよく知らないが、あまり明るくないということは察している。
なので、なるべく不安にさせないように言ったのだが、意外にもテイトは明るく笑った。
この頃はこんな風に笑う奴だったのか。
「随分ハクレン君に懐いてますね?どうやら私達のことは分からないようですが…」
「いえ、私のことも分かってはいないようです」
「初めて見たヤツを親だと思ってくっついてるアレか?」
「フラウ、動物じゃないんだから」
無垢な瞳で己を見るテイトを見つめ、フラウ司教は生き生きとした顔をなされた。
「とりあえず、最近の記憶は残っていないようですが…」
「ほほう?」
「ただ…」
「ほれ、こっち来いよテイト」
そう言って司教が手招きすると。
「や!」
「ブルピャッ!」
「うおっ?!」
「何故か、フラウ司教のことだけは警戒しているようです…」
テイトに拒まれたどころか、部屋から飛び出したミカゲが小さな頭を飛び越えて司教に牙を剥いた。
…フラウ司教なら大丈夫だと信じている。
「あーあ…ちっちゃなテイト君にも分かっちゃうんだね」
「危ないですから、あの人には近付いちゃダメですよ?」
「おい、何吹き込んでんだコラ…!」
ミカゲと格闘しながらもツッコミを忘れない司教を無視し、お二方は満面の笑みをテイトに向けた。
「テイト君、僕はラブラドールだよ。よろしくね」
「私はカストルです」
「らぶ……ラブラドール?カストル?」
ひょっこりと顔を見せたテイト。
やはり警戒しているのはフラウ司教だけか…。
「ふふ、可愛いねぇ」
「えぇ、癒されます」
うわずった声で呼ばれ、すっかりこの姿のテイトを気に入ってしまった様子のお二方。
ラブラドール司教に至っては、無い毒気が更に抜かれているようだ。
「ラブラドールくん、カストルくん!」
「ぶっ」
「え、くん付け?」
テイトが付けた予想外の敬称に、ミカゲと格闘中のフラウ司教が噴き出した。
カストル司教は眼鏡を直しながら困った顔をする。
「さすがに、この歳で“くん”はちょっと…」
「僕は別に構わないよ?」
「ラブは良くてもな――痛ッ!!何しやがるこの眼鏡!」
「テイト、年上の方には“さん”が正しい」
「あ…、ごめんなさい」
素直だ。今のテイトも大抵素直だが、拍車がかかって特別素直に見える。
「オレはハクレン。分かるか?」
「はくれん……さん?」
「……いや、オレは呼び捨てでいい」
注意した傍からややこしいことを言ってしまった気はするが、今更戦友から“さん付け”はむず痒いので、すまないテイト。
「俺のことも忘れんなよ」
華麗に復活なされたフラウ司教が、隙を見てわしゃわしゃとテイトの頭を撫でた。
「いいか、俺様は最強無敵のフラウ“様”だ。言ってみ」
「あなたこそ何吹き込んでるんですか」
「ぐはっ!!」
カストル司教の手刀がフラウ司教の頭を捉えた。
「子どもに無理矢理そんな風に呼ばせるなんて最低ですよ」
「テイト君が元に戻った時に悪影響が出たらどうするの?」
「なっ、悪影響って…!」
「…ふらう?」
舌足らずな一言がその場を静めた。
たった一言でその場の空気を変えてしまうとは、恐ろしいヤツだ。
「えーと…そういえばラブラドール司教、大切なことを忘れていましたが」
「うん?」
「テイトはいつ元の姿に?」
「…さぁ?」
「あっさり言うなよ!」
何故聞き忘れていたのかも分からない程、重大な話だったはずなのだが。
「だって、まだ試作段階だったから誰にも試したことなかったんだもん」
「なっ、それではテイトはこのまま……」
「ううん、試作段階だから、効果は保ってもきっと今日1日くらいだね」
「1日…ですか…」
見事に予感が的中したが、正直まったく嬉しくないところだ。
今日はまともな試験勉強にならないだろうな。
……ったく、言ってくれれば水くらいすぐ用意してやったものを。
「とりあえず、今日一日フラウはテイト君に近付くの禁止かな」
「なんでだよ!」
「危ないでしょう?それにテイト君も怖がってるみたいだし」
「んなこたねぇって…」
そう言ってフラウ司教がテイトを見やるが、当のテイトは決して目を合わせようとしなかった。
ここまでの反応も、そうそうないと思われる。
「というわけで。テイト君、僕と中庭でお茶でも」
「止めておいた方がいいでしょう。また何かあっては困りますよ、ラブラドール」
「他の薬と混ざって、余計にややこしくなりそうだしな…」
フラウ司教に続き、ラブラドール司教も肩を落としてしまわれた。
「でしたら、私の部屋でバザーに出す子ども服の試着を手伝って頂けると」
「余計ダメだ。」
「カストル、採寸なんてしなくても作れるよね?」
反撃とばかりに物申すお二方。
何故だろう、ラブラドール司教の笑顔に迫力が……このままでは。
「あ、あの…!」
「…仕方ないですね。ここはやはり順当に言って、ハクレン君に面倒を見てもらうのが一番でしょうか」
「…ま、そうなるわな」
「そうだね…」
「構いませんか?ハクレン君」
「え?あ、はい!」
最初からそのつもりでいたのだが、もしやお三方とも受験生であるオレを気遣ってくださったのだろうか?やはり素晴らしい方々だ!
「お気遣い、感謝します!」
「(う、純粋な目しやがる!)その…今日は子守の実習ってとこか?」
「(僕らのこと信頼してる目だね…)普段通りにしてれば、大丈夫だよ」
「(すみません、ハクレン君…)えぇ、頑張ってくださいね」
(ただ小さなテイト(君)と一緒にいたかっただなんて…とても言えない…)
「はい!ありがとうございます!」
「おう。それじゃ…っと」
去り際に、フラウ司教が振り返る。
「そういえば朝餉の時間、とっくに終わっちまったな」
「そ、そういえば……!」
全ての謎が解けたからか、今頃になって空腹を認識してしまった。
「後で何か適当に食材届けてやるよ」
「申し訳ありません」
「気にすんな。それより、頑張れよ。今日はお前がコイツの一日“神父(ファーザー)”だ」
「ファーザー…」
そう言われると、責任重大だ。
去り行くお三方の背中をテイトも一緒に見送った。
この小さなテイトに、オレは一体何がしてやれるだろう?
……とりあえずは、
「腹、減ってないか?テイト」
「すいた!」
「分かった、行くぞ」
「はーい!」
朝食だな。
…司教、本当に雛鳥を連れている気分になってきました。
ある朝、目が覚めると、戦友の姿がなかった。
司教見習い子育て奮闘記!
差し込む朝日の眩しさに目を覚まし、ゆっくりと身を起こした。
今日も司教となるべく、神に仕える一日が始まる。
……はずだったのだが。
「テイト?まだ寝てるのか?そろそろ支度を……」
乱れた髪を指で梳きながら、戦友が眠っている隣のベッドに目をやった。
だが、そこにテイトの姿はない。
以前から夜中に黙って抜け出すこともあれば、早朝から一人で自主練に行ってしまうことも少なくなかった。
だから、これが普段通りであれば、さして心配することもないのだが……。
覚醒したばかりで、寝惚けているのだろうか?
テイトの姿が見えない代わりに、シーツが不自然に盛り上がっているように見えた。
いくら小学生呼ばわりしてしまうような身長のテイトでも、あの中で丸まっているとは想像し辛いぐらいの大きさの山。
しかし、テイトの連れのドラゴン、ミカゲにしては大きいような。
…というか、考えるまでもなくミカゲはオレの頭に乗って、呑気に欠伸をしているわけだが…。
となると、一体何が入っている?
「ブルピャ!」
「…お前はあの中身、知ってるか?」
何故かとてつもなく嫌な予感がして、思わずミカゲに問い掛けた。
開けてしまえば、間違いなく今日一日、面倒に巻き込まれそうな予感がひしひしと。
だが、いつまでもこうして睨んでいるわけには……
もぞもぞ
…………うっ、動いたぞ!?今確実に動いたよな!!?
しーん…
なんだ…何なんだ一体…!!
母様…!これも司教になるための試練だというのですか…!?
「い、いいか……動くなよ」
意を決し、ベッドを降りた。
その拍子に落ちそうになったミカゲを腕に抱き直してから、数歩歩き、手を伸ばす。
テイト、頼むから早く帰って来てくれ。
「すー…」
「………ただいまぐらい言ったらどうだ」
シーツに埋もれていたのは、気持ち良さげに寝息を立てるテイト=クラインだった。
……おそらく。
「………なんだコレは」
ベッドに転がっている人騒がせな物体は、おそらくはテイトだった。
何故かあいつのコンプレックスである身長が更に縮んで、おまけに幼い顔つきをしている。
けれど、張りのある暗めのブラウンの髪と、この面影は間違いなくテイトだ。
見た目から察するに、五歳くらいだろうか。
むしろ違和感を覚えると言えば、毎日のように魘されている奴だとは信じられない、なんとも平和そうな、幸せそうな顔をして眠っていることぐらいだ。
それくらい、テイトとこの子どもは酷似している。
「…まさか、テイトの弟…?」
これでも信じ難い目の前の現実に、ポジティブになってみたつもりだ。
「ブルピャ!」
しかしそんな現実逃避を許さぬように、ミカゲが飛び降りて子どもの頬に擦り寄る。
すると穏やかな寝顔がくすぐったそうにさらに緩んで、目覚めることもないままミカゲをきゅっと抱き締めた。
か、可愛い……いやいやいや。
なんというか、父性本能のようなものをくすぐられたというか!
…なんて一人で焦っている場合ではなく。
こんなにぐっすりと眠っているところを邪魔するのは忍びないが、事態を把握せねばならない。
この子どもがテイトであるにせよないにせよ、確かめないことには始まらないのだから。
「おい…」
「んー…」
軽く揺すると、まるでイヤイヤと言うようにミカゲごとぐるりと寝返りをうたれてしまう。
少し罪悪感が襲って来る。
「……起きろ」
「…ん……ぅ…」
こんなに安心した顔をして眠るテイトを、オレは見たことがない。
テイトではないとしても、似過ぎた顔が罪悪感を生ませる。
やはり自然に目覚めるまで、待ってみようか?
「……テイト」
「ふぁ…?」
「!」
思わず零れた名前に反応したのか、子どもの瞼がゆっくり持ち上がった。
現われた翡翠色の瞳は、やはりテイトのそれにそっくりで。
「…テイト、なのか?」
「…?ふぁーざー?」
「お前……」
「おいクソガキ!ハクレン!起きてるか?」
急に扉の外からフラウ司教のお声がした。
やはりこの方は困っている者を助けてくださる、司教の鑑だ。
「フラウ司教!おはようございます」
「おう、そろそろ朝餉の時間終わっちまうぜ?何やってんだ?」
急いで扉を開けると、些か面倒くさそうな顔をなさっている司教が立っていた。
今日も司教服を完璧に着こなしておられる。
「…ん?テイトはどうした?」
「いえ、それが…その…」
事態を説明すべく、ベッドを振り返ろうとすると、重みを感じて足元を見れば。
「……………」
いつの間に起き上がったのか、小さな眉間にシワを寄せたあの子どもが、これはまた小さな手で、オレの足にしがみついていた。
子ども特有の大きな瞳を閉じたテイトそのものの顔を、不安げにオレの服に押し付けてくる。
「どうした?」
「………」
そっと顔を出して警戒するような目線を追えば、それはフラウ司教に続いていて。
「…大丈夫だ」
そう言って頭を撫でてやれば、こちらを不思議そうに上目で見る。
警戒を緩めたのか、小さな両手は撫でられた頭を確かめるように服から離れた。
「…………ハクレン」
「あぁ、司教、これは」
「その…なんだ、テイトには言わないでやるからよ」
「は?」
「あの陰険メガネが作ったのか?よく出来てんなー」
訝しげな顔をしたフラウ司教は、何やら見てはいけないものを見た顔をなさっている。
……ん?作った?眼鏡…カストル司教が?何を?
「いや、まさかお前がそんな趣……いやいや」
「?」
「俺は気にしないぜ。ハクレンがたまたま持ってた人形が、たまたまテイトそっくりで、たまたま子どもの姿だったとしても」
「え…………えぇっ!!!?なっ、違…!!」
「違う?もしかしてお前が作ったのか?確かにお前は器用だと思ってたが…」
「いや、そこではなくて!」
多大なる勘違いをなされた司教は言いながら腰をかがめ、この子と目線を合わせる。
そうすれば案の定、逃げるようにまたオレの後ろに隠れてしまった。
「誤解です司教、この子どもはカストル司教のシスター人形の類ではなく…!」
「私がどうかしましたか?」
「そんな所で何してるの?」
次から次へと。
そんな言葉がぴったりな程、カストル司教とラブラドール司教がタイミングよくいらっしゃった。
「いや、なんでもねぇよ。な?ハクレン」
まだ恐ろしい勘違いをしているらしいフラウ司教は、お優しいことにお二方から子どもを隠そうとなさっていた。
いや、ですから、違うのです司教。
「?どうしたんですフラウ」
「あれ?その子……」
だがフラウ司教の親切も虚しく、少し顔を覗かせたこの子をラブラドール司教が見つけてしまった。
「おや…テイト君にそっくりですね…?」
「なんだ、やっぱお前が作ったんじゃねぇのか」
「私は男の子の人形を作る趣味はありませんよ」
「……ってことは」
あぁ、またしても誤解されてしまう…!
「あのっ、司教…!」
「あー、やっぱり昨日のアレ、間違えちゃってたんだねぇ」
弁解すべく口を開くと、間延びしたラブラドール司教のお声が重なった。
いつもの笑顔で、腰を屈めるラブラドール司教。
人柄のなせる業なのか、先程のフラウ司教の時とは違い、この子が警戒する様子はなかった。
「き、昨日のアレとは?」
「昨日の夜、教会内を巡回していたら偶然テイト君に会ってね」
やっぱり抜け出してたのか。
「それで?」
「喉が渇いたから水を飲みに行こうとしてたみたいだったんだけど、寝起きに冷たい水は良くないから、僕の部屋でお茶を淹れてあげようとして…」
水なら部屋にも置いてあっただろうが。
「…して?」
「調合したジャムを間違えて入れちゃった」
ジャムを調合!?調理じゃなくて、調合!?
「本当は安眠の効果があるジャムを入れてあげようと思ったんだけど、取った瓶が隣に置いてあった実験用のジャムだったみたいで」
い、一体何の実験なんだ…!!?だが絶対に聞いてはならない気がする…!
「朝起きたら中身が減ってたから、おかしいなって思ったんだよねぇ」
「んな軽く言うなよラブ」
「…ということはつまり、このテイト君にそっくりな子は……」
「うん、僕の薬を飲んで縮んじゃった、テイト君本人だね」
司教お三方とオレに一斉に見られ、たじろいだコイツは本当にテイトらしい。なんて悪夢だ。
「…って、本当にそんなこと起きんのか?」
「起きちゃったんだから仕方ないよ。」
あっさりと切り捨てたラブラドール司教に溜め息をついて、フラウ司教はテイトを見た。
「お前、名前は?」
「ティア……テイト、クライン」
いよいよもって信じざるを得ない自己申告だった。
「あれは本来少しの間だけ細胞の成長、つまり老いを緩めたりする身体能力の増強の薬だったんだけど…」
「若返りすぎだろ」
「ミカエルの瞳を有しているテイト君だからこその副作用かもしれませんね」
大の大人(しかも三人)に見つめられて、さすがのテイトも瞳を不安に揺らせた。
またオレの足にしがみついてくる。
「大丈夫だ。この方達はお前に何もしたりしないから」
「…ほんと?」
テイトの過去についてまだよく知らないが、あまり明るくないということは察している。
なので、なるべく不安にさせないように言ったのだが、意外にもテイトは明るく笑った。
この頃はこんな風に笑う奴だったのか。
「随分ハクレン君に懐いてますね?どうやら私達のことは分からないようですが…」
「いえ、私のことも分かってはいないようです」
「初めて見たヤツを親だと思ってくっついてるアレか?」
「フラウ、動物じゃないんだから」
無垢な瞳で己を見るテイトを見つめ、フラウ司教は生き生きとした顔をなされた。
「とりあえず、最近の記憶は残っていないようですが…」
「ほほう?」
「ただ…」
「ほれ、こっち来いよテイト」
そう言って司教が手招きすると。
「や!」
「ブルピャッ!」
「うおっ?!」
「何故か、フラウ司教のことだけは警戒しているようです…」
テイトに拒まれたどころか、部屋から飛び出したミカゲが小さな頭を飛び越えて司教に牙を剥いた。
…フラウ司教なら大丈夫だと信じている。
「あーあ…ちっちゃなテイト君にも分かっちゃうんだね」
「危ないですから、あの人には近付いちゃダメですよ?」
「おい、何吹き込んでんだコラ…!」
ミカゲと格闘しながらもツッコミを忘れない司教を無視し、お二方は満面の笑みをテイトに向けた。
「テイト君、僕はラブラドールだよ。よろしくね」
「私はカストルです」
「らぶ……ラブラドール?カストル?」
ひょっこりと顔を見せたテイト。
やはり警戒しているのはフラウ司教だけか…。
「ふふ、可愛いねぇ」
「えぇ、癒されます」
うわずった声で呼ばれ、すっかりこの姿のテイトを気に入ってしまった様子のお二方。
ラブラドール司教に至っては、無い毒気が更に抜かれているようだ。
「ラブラドールくん、カストルくん!」
「ぶっ」
「え、くん付け?」
テイトが付けた予想外の敬称に、ミカゲと格闘中のフラウ司教が噴き出した。
カストル司教は眼鏡を直しながら困った顔をする。
「さすがに、この歳で“くん”はちょっと…」
「僕は別に構わないよ?」
「ラブは良くてもな――痛ッ!!何しやがるこの眼鏡!」
「テイト、年上の方には“さん”が正しい」
「あ…、ごめんなさい」
素直だ。今のテイトも大抵素直だが、拍車がかかって特別素直に見える。
「オレはハクレン。分かるか?」
「はくれん……さん?」
「……いや、オレは呼び捨てでいい」
注意した傍からややこしいことを言ってしまった気はするが、今更戦友から“さん付け”はむず痒いので、すまないテイト。
「俺のことも忘れんなよ」
華麗に復活なされたフラウ司教が、隙を見てわしゃわしゃとテイトの頭を撫でた。
「いいか、俺様は最強無敵のフラウ“様”だ。言ってみ」
「あなたこそ何吹き込んでるんですか」
「ぐはっ!!」
カストル司教の手刀がフラウ司教の頭を捉えた。
「子どもに無理矢理そんな風に呼ばせるなんて最低ですよ」
「テイト君が元に戻った時に悪影響が出たらどうするの?」
「なっ、悪影響って…!」
「…ふらう?」
舌足らずな一言がその場を静めた。
たった一言でその場の空気を変えてしまうとは、恐ろしいヤツだ。
「えーと…そういえばラブラドール司教、大切なことを忘れていましたが」
「うん?」
「テイトはいつ元の姿に?」
「…さぁ?」
「あっさり言うなよ!」
何故聞き忘れていたのかも分からない程、重大な話だったはずなのだが。
「だって、まだ試作段階だったから誰にも試したことなかったんだもん」
「なっ、それではテイトはこのまま……」
「ううん、試作段階だから、効果は保ってもきっと今日1日くらいだね」
「1日…ですか…」
見事に予感が的中したが、正直まったく嬉しくないところだ。
今日はまともな試験勉強にならないだろうな。
……ったく、言ってくれれば水くらいすぐ用意してやったものを。
「とりあえず、今日一日フラウはテイト君に近付くの禁止かな」
「なんでだよ!」
「危ないでしょう?それにテイト君も怖がってるみたいだし」
「んなこたねぇって…」
そう言ってフラウ司教がテイトを見やるが、当のテイトは決して目を合わせようとしなかった。
ここまでの反応も、そうそうないと思われる。
「というわけで。テイト君、僕と中庭でお茶でも」
「止めておいた方がいいでしょう。また何かあっては困りますよ、ラブラドール」
「他の薬と混ざって、余計にややこしくなりそうだしな…」
フラウ司教に続き、ラブラドール司教も肩を落としてしまわれた。
「でしたら、私の部屋でバザーに出す子ども服の試着を手伝って頂けると」
「余計ダメだ。」
「カストル、採寸なんてしなくても作れるよね?」
反撃とばかりに物申すお二方。
何故だろう、ラブラドール司教の笑顔に迫力が……このままでは。
「あ、あの…!」
「…仕方ないですね。ここはやはり順当に言って、ハクレン君に面倒を見てもらうのが一番でしょうか」
「…ま、そうなるわな」
「そうだね…」
「構いませんか?ハクレン君」
「え?あ、はい!」
最初からそのつもりでいたのだが、もしやお三方とも受験生であるオレを気遣ってくださったのだろうか?やはり素晴らしい方々だ!
「お気遣い、感謝します!」
「(う、純粋な目しやがる!)その…今日は子守の実習ってとこか?」
「(僕らのこと信頼してる目だね…)普段通りにしてれば、大丈夫だよ」
「(すみません、ハクレン君…)えぇ、頑張ってくださいね」
(ただ小さなテイト(君)と一緒にいたかっただなんて…とても言えない…)
「はい!ありがとうございます!」
「おう。それじゃ…っと」
去り際に、フラウ司教が振り返る。
「そういえば朝餉の時間、とっくに終わっちまったな」
「そ、そういえば……!」
全ての謎が解けたからか、今頃になって空腹を認識してしまった。
「後で何か適当に食材届けてやるよ」
「申し訳ありません」
「気にすんな。それより、頑張れよ。今日はお前がコイツの一日“神父(ファーザー)”だ」
「ファーザー…」
そう言われると、責任重大だ。
去り行くお三方の背中をテイトも一緒に見送った。
この小さなテイトに、オレは一体何がしてやれるだろう?
……とりあえずは、
「腹、減ってないか?テイト」
「すいた!」
「分かった、行くぞ」
「はーい!」
朝食だな。
…司教、本当に雛鳥を連れている気分になってきました。
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