管理人黒峰の日々の徒然。
主に視聴アニメやらでの叫びなど。なんだかんだうだうだ言ったり空元気でテンション高かったり色々!
特区日本設立パロディ、第3弾になります。
(サイト閉鎖に伴い、加筆修正した上での再掲載になります※加筆修正2011/2/10)
第2弾直後のお話で、スザクとユフィそれぞれの日常です。
少しシリアス方向に戻りました。ルルとネリ姉さまも出てきます。
ゼロとユフィの協定が成功しているので、嫌悪感等を抱かれる方はご留意ください。
メインの目的が幸せな騎士姫なので、世界情勢諸々はご都合主義なところもあるかと思いますが、何卒ご容赦くださいませ。
(サイト閉鎖に伴い、加筆修正した上での再掲載になります※加筆修正2011/2/10)
第2弾直後のお話で、スザクとユフィそれぞれの日常です。
少しシリアス方向に戻りました。ルルとネリ姉さまも出てきます。
ゼロとユフィの協定が成功しているので、嫌悪感等を抱かれる方はご留意ください。
メインの目的が幸せな騎士姫なので、世界情勢諸々はご都合主義なところもあるかと思いますが、何卒ご容赦くださいませ。
「にゃあん」
「あら、アーサー」
先程までのスザクとのやり取りに、しばらくの間玄関をぽやんと見つめたままだったユフィの意識を引き戻したのはそんな猫の鳴き声だった。
ぶち模様の愛らしい、足元にすり寄るアーサーも大事な同居人ならぬ同居猫。
ユフィはしゃがんでその滑らかな毛並みを撫でた。
「ごめんなさい、あなたの朝ご飯がまだでしたね」
幸いなことに今朝のアーサーは機嫌が良さそうで、怒っている様子はない。
スザクはよく噛み付かれると言うけれど、ユフィは一度もそんな経験はないので安心して抱き上げる。
嫌われているからと彼は言うが、ユフィにしてみれば、それもこの子なりの愛情表現だと思うのだけど。
「…もう少しだけ、優しくしてあげてくださいね」
「にゃあ」
まだ赤みの残るユフィの頬をアーサーはぺろりと舐めた。
優しい明日へ
「ユーフェミア様!」
数時間経って、ようやく特区にも人影が見え始めた。
特区内に予定される施設の建設関係者やら、政治・経済的な関係での面々など、とにかく急ピッチでの作業で忙しなく皆動き回っている。
区長となるユフィももちろん作業の監督にあたっていた。
「ユーフェミア様、おはようございます」
「皆さんご苦労様です」
通り掛かるごとにたくさんの人に挨拶される。その容姿から、皆おそらく日本人だろうと思われた。
最初の頃はやはり信疑や敬遠など様々な感情から見えない壁があるようで、なかなか距離を埋めることも出来なかった。
けれどもめげずに積極的に挨拶や言葉を交わそうとするユフィの姿勢や人柄のおかげで、最近ようやく彼らとも打ち解けてきたと実感出来るようになった。
建設面でユフィに出来ることは無いが、こうして現場を回ることは時間の許す限り欠かさずにいる。
彼らの笑顔に出会う度、特区の成功と惜しまぬ努力を誓うのだ。
「…私も頑張ります。」
誰に言うでもなく、そう呟いた時だった。
「ユーフェミア経済特区長」
よく知る声に呼び掛けられ、振り返るとそこにはコーネリアと数人のブリタニア軍の護衛の姿があった。
急いで駆け寄ると、見知った顔の中にはダールトンの顔もある。
今日はコーネリアが初めて特区の視察に訪れる日なのだ。
「コーネリア総督!まだ時間ではなかったはずでは」
「予定より早い到着になりましたが、お許し頂きたい」
「いえ、構いません。お忙しい中、お越し頂き有難うございます」
予定ではまだ数刻あったはずの面会に驚くも、ダールトンの言葉に快く承諾した。
本来なら立場上、きちんと出迎えをせねばならなかったのでお互い様といったところか。
「…久しいな、ユフィ」
「!」
一軍の将らしい勇ましい顔をしていた姉は刹那、柔らかい微笑と声音でユフィを見つめた。
これは公式な面会であり、ブリタニア姓を放棄したユフィにとってはもう軽々しく言葉を交わすことも出来ない。
特に立場を重んじるコーネリアとは。
それでも、久しぶりに見る最愛の妹の姿に、ユフィにだけ分かるほど一瞬でも表情を緩めてくれたことは、何より嬉しかった。
(…お姉様……)
姓は違えようとも、ずっと一緒に育ってきた姉妹なのだから。
「今日は特区建設の進行具合の調査と今後の詳細についての会談だ。その成果、見せてもらうぞ」
(お姉様、私……)
「はい。こちらへどうぞ」
***************
「なぁに緩い顔してるのかなぁ?スザクくん」
「!リヴァル、あれ?」
ぼんやりとしていたところに、したり顔のリヴァルが声を掛けてきた。
ざわざわと教室内には雑談の声が響いている。
スザク自身はまだ授業中の意識でいたが、気付かぬ内にどうやら休憩時間になっていたようだ。
「いつの間に…」
「もしかしてスザク、授業終わったことに気付いてなかったわけ?」
「う、うん」
「珍しいな、お前が授業を聞いていないなんて」
ルルーシュも傍へと近付いてきた。
「分からない問題でもあったのか?」
「いやいや、その割りには幸せそうな顔してましたよぉ?」
にやにやとしたリヴァルに肩を組まれるスザク。
「ずばり!恋煩いだろ」
「な…っ!」
一瞬ではあったが、分かりやすくスザクが慌てたのをリヴァルが見逃すはずもなかった。
「このリヴァルさんに話してみろよ。何?ユーフェミア様と何かあった?」
名前を出され、つい先程まで思い出していた朝のやり取りが再び頭の中に浮かんできた。
まだ彼女に触れていた感触を鮮明に思い出せるほどで、何とも言えない気分になる。
「別に、何もないよ」
「隠さなくても良いんだぜ?俺達、友達だろ?」
出来るだけ平静を装ってはみたが、こういう話題に食いつきの良い友人はよほど期待しているらしい。
「その辺にしといてやれよ、リヴァル」
「なんだよ、ルルーシュも少しくらい気になるだろ?」
「本当に何もないんだって」
スザクはどんなに聞かれようと、言えるわけがないのだ。
何故ならスザクが特区に移り住んでいることはリヴァルも知っているが、まさかユフィと同じ家に住んでいるなんて、この学園ではルルーシュとナナリーしか知らない。
世間でも知っているのはコーネリア達軍上層部、特にユフィと関係が深かった人物くらいのものだ。
仮に朝のやり取りを話すとしたら、一緒に生活していることから話さなければならない。
そしてそんなことを迂闊に話せば間違いなく騒ぎになるだろう。
「今は二人とも違うとはいえ、皇女様と騎士だったんだし、そういうことだって」
「それよりスザク、生徒会のプリントを提出しないといけないんだ。ちょっと付き合ってくれないか?」
「良いよ、行こう」
「あ、おい!」
逃げようとしていることに気付いたリヴァルが足早に教室を出て行こうとする二人に向かって叫んだ。
「俺も行くって!」
「リヴァルは次の授業の課題、まだ終わってないだろ?」
「今からやっても終わるわけな……って、聞いてないし…。」
颯爽と出て行ってしまった二人。
いずれは話すつもりでいるが、騒ぎになるのは避けたいとはいえ、スザクは少し申し訳ない気がしていた。
生徒の活気にあふれている休憩時間の廊下を二人で歩く。
「ありがとうルルーシュ、助かったよ」
「別に。あんなところで今のお前の生活なんて話したら、すぐに噂になるだろ?」
事情を知っているルルーシュは、時々こうして助けてくれる。
「特区の成功の妨げになるようなことは、出来るだけ避けたいじゃないか」
「うん。リヴァルにもいずれちゃんと話すつもりだけど、今はまだちょっと…」
実質ユフィの護衛のために同居しているわけだが、人の噂とは脚色され一人歩きしていくもの。
そんな面白くもない理由はすぐに隠されてしまうだろう。
…実際今朝のように、それだけでは済まないこともしていないわけではない。
「特区には俺やナナリーも住むんだ。成功してもらわないわけにはいかない」
「うん、そうだね」
最近は日本におけるテロ活動も落ち着いてきていて、残党勢力は追々沈静化されると思われる。
やはり黒の騎士団が特区に参加を表明したことが大きいようだ。
おかげでこうして学校に通う余裕も出来つつある。
(今日は何事もないと良いけど…)
今までも、いくつか危険な目には遭っていた。
植民地支配から突然の特区建設という変化に対する日本人の抵抗も多かったが、ゼロという最大の指導者を失った彼らよりも、今はブリタニア側のユフィや特区に対する反対派の勢力の方が気掛かりだ。
特にしきたりや立場を重んじる貴族間では、ナンバーズのためにブリタニアを棄てた愚かな皇女と批判する者もいれば、テロリストと通じてテロ行為に及ぶのではなどと杞憂を口にする者もいる。
これも人の噂というやつだ。
しかし逆に立場を重んじる貴族としては、皇族であるユフィを表立って害するようなことは起こり難い。
そこが唯一の救いでもある。
自分や黒の騎士団のせいでユフィが悪く言われるのは悔しいが、今は態度と成果で示すしかない。
それにブリタニア姓を捨てたことは、意図していなかったとはいえ、ユフィの真意が地位や権力にないことを証明する一番分かりやすい手段になったはず。
人が悪意を向けて来る分、自分が彼女を守ればいいだけの話だ。
(何かあれば連絡するって約束してくれたし、うん。)
特区に居住を決めた者にも、まだユフィが特区に居住する意図を勘ぐる節はある。
支配者であったはずのブリタニアが何故そこまで出来るのかと、何か裏があるのではないかと。
まだ完璧に信用されたわけではないのだと、ユフィとスザクは思い知らされた。
だから誰かに提言される前に実行せねば、本当の意味で信頼は得られないだろう。
いつだって、ユフィ自身の意志でなければならないから。
日本人とブリタニアの間にあるわだかまりを少しでも取り除くため、ユフィは努力を惜しまない。
いつか笑い合える、その日のために。
だからスザクは、そういう勢力から、批判や中傷、猜疑心から彼女を守るためにまだ軍にいるのだ。
「……やっぱり、プリントの提出っていうのは嘘だったんだね」
呆れたように笑うスザク。
二人がたどり着いたのは学園の屋上。
なるべく人に聞かれたくない話をする時は、いつもここに来るのが二人の間の決まり事だ。
「今日提出しなくちゃならないプリントがあったのは本当だよ。もうとっくに提出してあっただけで」
そう言ってルルーシュは肩を竦めた。
提出先の教師がちょうど先程の授業の担当だったらしく、スザクがぼんやりしていた間に出してきたのだと言う。
職員室とは別の方向にずんずん進んで行くルルーシュを見ながら、なんとなく悟っていたスザクは特に驚きはしなかった。
ただやっぱり、リヴァルに申し訳ない気がしただけで。
「それで?ユフィと何かあったのか?」
「あ、やっぱり聞くんだ」
「俺の親友と義妹のことだ、気になったって良いだろう?リヴァルほどじゃないがな」
冗談ぽく笑うルルーシュ。
本当に何もないと言うと、ルルーシュはその言葉を守るようにこれ以上は追求しなかった。
「特区の方はどうだ?それとまた狙われたりしてないか?」
「最近は随分平和だよ。落ち着いてるし、建設も予定より早く進めそうだってユフィが言ってた」
「そうか。でもまだ気は抜くなよ。せっかくここまできたんだ」
「分かってる。それに今日はコーネリア総督が視察に来る日だから、大丈夫だと思うよ。」
「コーネリアが?」
もうすぐ予定時刻を迎えようとしている。そろそろ到着している頃かもしれない。
「…なぁスザク、特区が完成しても、まだ軍を辞める気はないのか?」
真剣なまなざしでルルーシュは尋ねた。
特区が完成したならば、きっと特区内は平和な世界になるだろう。
少なくとも、そうなる努力を義妹も協力者のゼロである自分も惜しまない。
しかしそうなった時、スザクはどうしているだろうか?
平和だった頃のように、暮らしているだろうか。
特区の完成が近付く程、何故だかルルーシュはそう思って、以前にも同じ質問をしていた。
その時は、「ないよ。やらなきゃいけないことが、まだあるから」と答えが返ってきたけれど。
「…そういうルルーシュはどうなんだい?君は昔ブリタニアを壊すって言っていたけど、特区に入ればもうそれも叶わなくなるよ。ナナリーの居場所になるんだから」
本当に諦められるのか、納得しているのかとスザクの瞳は訴えていた。
幼い頃の境遇を知り尽くした仲だ。簡単に諦めるような性格じゃないことも知っているだろう。
「本当にナナリーが、俺達が平和に暮らしていけるなら、俺はこのままでいようと思う。」
「それで良いのかい?」
だが、ユフィの手を取ったあの時から、俺の反逆は終わっている。
もしも再び俺達の生活が脅かされようとするならどうなるか分からないが、少なくとも俺はユフィの手を取った。
ナナリーの幸せな未来の為に被った仮面を捨てる決意は、もう出来ているのだ。
「あぁ、良いさ。」
その返答にスザクは手すりに寄りかかって、遠くの方を見やる。
「だからスザク、お前はどうする?ナナリーや、ユフィの傍で、ただ平和に暮らす選択肢はお前にもあるはずだろう?」
ひと時の平和のようにただ青い青い空と、ゆっくり流れていく雲を見ながら、やがてスザクは呟いた。
「ナイトオブワンだと?」
会談を終え、別室で妹と二人きりとなったコーネリアは真摯な瞳をしている彼女の顔を見やった。
特区での生活について、スザクについて話していたユフィの口から突然発せられた“ナイトオブワン”の称号。
ユフィの紫がちな瞳には、信じられないといった顔をしている自分が映っている。
「はい。ナイトオブワン、それが枢木スザクの望みです。」
「聞いてほしい。僕は、ナイトオブワンを目指している。」
ルルーシュもまた遠くを見据える親友の言葉を聞いていた。
自分の決意を話し、問いかけたスザクから返ってきた言葉は突拍子もないものだった。
(…いや、考えなかったわけじゃない)
ただ真剣な表情で、けれど真っ直ぐに遠くを見つめたままの告白。
ルルーシュからはその横顔しか窺えなかった。
「……日本人で、ユフィの騎士でもなくなったお前が?」
それは馬鹿にする言葉ではなく、その道程がどれほど厳しいかを表す言葉だ。
「難しいことだって十分理解してる。それでも」
「それがお前の“やりたいこと”、か」
「…馬鹿を言うな。ブリタニア軍人でもトップレベルの選び抜かれた人材しか選ばれないものを、あいつはナンバーズだぞ?しかもラウンズ随一の実力をもつナイトオブワンなどと…」
「それでもお姉様、スザクは本気です。本気なのです」
強情な時の表情をしているユフィを見ると、コーネリアは溜め息をつく気にもならなかった。
こういう顔をしている時は、絶対に譲らないのが妹だ。
自分の言っていることが、どれ程途方に暮れる話なのか懇々と説明してやりたいが無意味だろう。
それくらい重々承知で言っているのでなければ、むしろこんな顔は出来ない。
(だから行政特区の建設など反対したのだ…)
そんな野望を持った者の隣に立つ者として、妹はどれだけ苦労しなければならないのだろう。
だからユフィの騎士は、自分でありたかったのに。
「…枢木スザクは、ナイトオブワンを目指してどうする?力が欲しいのか?それとも権力か?」
「ナイトオブワンになれば、ブリタニアの植民地になっている土地を一箇所だけ選んで、領地として与えられる。僕は、それが欲しい。」
今度はスザクはしっかりとルルーシュを見据えて言った。
「領主になろうって言うのか?」
「与えられる領地にこの日本を選んで、この特区と提携し、やがては世界に自治社会を広げたいと考えている。」
「それが私たちの考えた、ブリタニアの中にいながら、何も壊さず、世界を変える方法です。」
「テロ行為じゃない、誰の血も流さないもっと確かなやり方で、大勢の人々が自分の意志で平和を訴えられるようにしたいんだ。」
親友の告げる言葉は、自分のやろうとした“破壊”とは正反対の理想。
甘い甘い、本当に夢のような理想にルルーシュは一瞬当惑した。
しかしその裏にも、自分の歩んだ道と同じく血を吐くような棘の道があるのは容易に想像できる。
その上で、破壊の上に創造を望んだ自分とは違い、創造された世界の上に更なる創造を望むというのか。
「もちろんその為には、その訴えを聞き入れられる世界にもしなくちゃいけない」
(しかし特区を受け入れたこの世界なら、何かが変わるかもしれない――――…)
「…それが、お前の言っていた“内側から変える”ということか」
スザクは静かにうなずく。
ブリタニア皇女の立場からエリア11を、ブリタニアを変えようとしているユフィ。
それなら自分には何が出来る?
日本人で、枢木首相の息子で、ブリタニア軍人で、ランスロットのパイロットで、ユフィの騎士であった自分に出来ることは?
「ユフィはブリタニアの内側から外側を変えようとしている。だから僕は外側から内側を変えていくんだ。」
そうすればきっと、早くお互いに辿り着ける。お互いの望む世界に。
「そのために僕はブリタニア軍属を続けてる。世界を変えるために。ユフィを、君たちを守るために。」
「特区日本を設立して、それで終わる気は無かったのだな」
「お姉様は、その方が良かったと思いますか?」
そう聞いてきたユフィは、申し訳のなさそうな、寂しそうな瞳をしていた。
「頼りない顔をするな」
小さな頭に手を置いて、くしゃりと撫でてやる。
掌に感じる幼い頃との違和感にずいぶん成長したようだと思った。
まだまだ変わらないと思っていたのに。
「…やはり勿体ないな」
「?」
「まったく、あの男のどこに惹かれたのか」
「!」
「ユフィ、私はお前が何に縛られることも無く、不自由することも無く、ただ幸せに生きてほしいだけだよ」
「お姉様……」
「皇族の重圧やこんな争いごと、政治のいざこざなど、お前には向いていないだろう」
そんな世界はこの子には不必要で相応しくない、そう思ったから力を求めてここまできて、この愛しい妹を守ってきた。
「それでもお前は、自ら背負おうと言うのか?」
――――届けたい声があった。
「はい、スザクと一緒に。…スザクとなら、私は」
――――誰にも届かない声だと思っていた。
「僕は、僕でも、ユフィと一緒なら、出来る気がする……ううん、ユフィだからこそ、一緒に成し遂げたいと思うんだ。」
―――どうしようもない、身勝手な懺悔。
―――我侭にしかならない自分の意志。
「あの人は、それを初めて聞いてくれた人だから。」
「あの人が、生きてもいいんだって教えてくれたから。」
「あの人が勇気をくれるから、自分は生きていける」
妹は、親友は、今まで見たどんな笑顔よりも幸せそうな顔で言うのだ。
「今あの人と過ごす、笑い合える一日一日が、とても大切で愛しいもの。」
「それを守る為なら、どんなことだって頑張れる。」
窓から飛び出したあの日、空から女の子が降ってきたあの日、
一番笑っていてほしい人を見つけたから。
ユフィの手がそっとコーネリアの手を包み込む。
幾度と無く戦場を駆け抜け、歴戦を勝ち抜いてきた武人の手だ。
「だからお姉様、どうかご心配なさらないでください」
「ユフィ…」
「待っていてください、必ず争いの無い優しい世界にしてみせます。そうしたらお姉様、また普通にお話出来るようになりますよね?昔みたいに笑って暮らせますよね?」
この剛毅な手が、誰のためのものかはユフィだって気付いている。
誰のために姉がここまで努力してきたのか、ユフィだって分かっている。
だからこそ、昔のようにただ二人でいるだけで、陽だまりの中で笑い合える未来がほしい。
「だから今度は、私が頑張る番です。コーネリアお姉様」
「だからルルーシュ、君の言ってくれた選択肢は僕が世界を変えられた後の、最高のご褒美なんだ」
「それまで受け取るつもりはない…か」
「うん……ごめん」
そう語る強情な親友を見てルルーシュは、そういえばユフィもこういう性格だったなと思い出していた。
誰よりも理想的な手段で結果を求めて、それがどんなに夢物語だとしても絶対に譲らないのだ。
「どうりで…似たもの同士だったわけだ」
「え?」
「なんでもない」
決して非情な手を使わず、妥協せず、優しい明日へ世界を導こうとしている。
どこまでも甘くお人好しで、自分の利益なんかこれっぽっちも考えてなくて、
いや、
自分のためにとった道が、結局他人までも優しさで包んでしまうような、不思議な二人の人間がいる。
正反対に見えてどこか自分と似ていたはずなのに、決定的に違ったのは“創造”を選んだこと、たったそれだけで、
(あぁ、だからこそ、俺は仮面を捨ててまで賭けてみたいと、)
この二人だからこそ、変えられる何かがあるのかもしれないと、
信じてもいいような気がしたのだ
「あら、アーサー」
先程までのスザクとのやり取りに、しばらくの間玄関をぽやんと見つめたままだったユフィの意識を引き戻したのはそんな猫の鳴き声だった。
ぶち模様の愛らしい、足元にすり寄るアーサーも大事な同居人ならぬ同居猫。
ユフィはしゃがんでその滑らかな毛並みを撫でた。
「ごめんなさい、あなたの朝ご飯がまだでしたね」
幸いなことに今朝のアーサーは機嫌が良さそうで、怒っている様子はない。
スザクはよく噛み付かれると言うけれど、ユフィは一度もそんな経験はないので安心して抱き上げる。
嫌われているからと彼は言うが、ユフィにしてみれば、それもこの子なりの愛情表現だと思うのだけど。
「…もう少しだけ、優しくしてあげてくださいね」
「にゃあ」
まだ赤みの残るユフィの頬をアーサーはぺろりと舐めた。
優しい明日へ
「ユーフェミア様!」
数時間経って、ようやく特区にも人影が見え始めた。
特区内に予定される施設の建設関係者やら、政治・経済的な関係での面々など、とにかく急ピッチでの作業で忙しなく皆動き回っている。
区長となるユフィももちろん作業の監督にあたっていた。
「ユーフェミア様、おはようございます」
「皆さんご苦労様です」
通り掛かるごとにたくさんの人に挨拶される。その容姿から、皆おそらく日本人だろうと思われた。
最初の頃はやはり信疑や敬遠など様々な感情から見えない壁があるようで、なかなか距離を埋めることも出来なかった。
けれどもめげずに積極的に挨拶や言葉を交わそうとするユフィの姿勢や人柄のおかげで、最近ようやく彼らとも打ち解けてきたと実感出来るようになった。
建設面でユフィに出来ることは無いが、こうして現場を回ることは時間の許す限り欠かさずにいる。
彼らの笑顔に出会う度、特区の成功と惜しまぬ努力を誓うのだ。
「…私も頑張ります。」
誰に言うでもなく、そう呟いた時だった。
「ユーフェミア経済特区長」
よく知る声に呼び掛けられ、振り返るとそこにはコーネリアと数人のブリタニア軍の護衛の姿があった。
急いで駆け寄ると、見知った顔の中にはダールトンの顔もある。
今日はコーネリアが初めて特区の視察に訪れる日なのだ。
「コーネリア総督!まだ時間ではなかったはずでは」
「予定より早い到着になりましたが、お許し頂きたい」
「いえ、構いません。お忙しい中、お越し頂き有難うございます」
予定ではまだ数刻あったはずの面会に驚くも、ダールトンの言葉に快く承諾した。
本来なら立場上、きちんと出迎えをせねばならなかったのでお互い様といったところか。
「…久しいな、ユフィ」
「!」
一軍の将らしい勇ましい顔をしていた姉は刹那、柔らかい微笑と声音でユフィを見つめた。
これは公式な面会であり、ブリタニア姓を放棄したユフィにとってはもう軽々しく言葉を交わすことも出来ない。
特に立場を重んじるコーネリアとは。
それでも、久しぶりに見る最愛の妹の姿に、ユフィにだけ分かるほど一瞬でも表情を緩めてくれたことは、何より嬉しかった。
(…お姉様……)
姓は違えようとも、ずっと一緒に育ってきた姉妹なのだから。
「今日は特区建設の進行具合の調査と今後の詳細についての会談だ。その成果、見せてもらうぞ」
(お姉様、私……)
「はい。こちらへどうぞ」
***************
「なぁに緩い顔してるのかなぁ?スザクくん」
「!リヴァル、あれ?」
ぼんやりとしていたところに、したり顔のリヴァルが声を掛けてきた。
ざわざわと教室内には雑談の声が響いている。
スザク自身はまだ授業中の意識でいたが、気付かぬ内にどうやら休憩時間になっていたようだ。
「いつの間に…」
「もしかしてスザク、授業終わったことに気付いてなかったわけ?」
「う、うん」
「珍しいな、お前が授業を聞いていないなんて」
ルルーシュも傍へと近付いてきた。
「分からない問題でもあったのか?」
「いやいや、その割りには幸せそうな顔してましたよぉ?」
にやにやとしたリヴァルに肩を組まれるスザク。
「ずばり!恋煩いだろ」
「な…っ!」
一瞬ではあったが、分かりやすくスザクが慌てたのをリヴァルが見逃すはずもなかった。
「このリヴァルさんに話してみろよ。何?ユーフェミア様と何かあった?」
名前を出され、つい先程まで思い出していた朝のやり取りが再び頭の中に浮かんできた。
まだ彼女に触れていた感触を鮮明に思い出せるほどで、何とも言えない気分になる。
「別に、何もないよ」
「隠さなくても良いんだぜ?俺達、友達だろ?」
出来るだけ平静を装ってはみたが、こういう話題に食いつきの良い友人はよほど期待しているらしい。
「その辺にしといてやれよ、リヴァル」
「なんだよ、ルルーシュも少しくらい気になるだろ?」
「本当に何もないんだって」
スザクはどんなに聞かれようと、言えるわけがないのだ。
何故ならスザクが特区に移り住んでいることはリヴァルも知っているが、まさかユフィと同じ家に住んでいるなんて、この学園ではルルーシュとナナリーしか知らない。
世間でも知っているのはコーネリア達軍上層部、特にユフィと関係が深かった人物くらいのものだ。
仮に朝のやり取りを話すとしたら、一緒に生活していることから話さなければならない。
そしてそんなことを迂闊に話せば間違いなく騒ぎになるだろう。
「今は二人とも違うとはいえ、皇女様と騎士だったんだし、そういうことだって」
「それよりスザク、生徒会のプリントを提出しないといけないんだ。ちょっと付き合ってくれないか?」
「良いよ、行こう」
「あ、おい!」
逃げようとしていることに気付いたリヴァルが足早に教室を出て行こうとする二人に向かって叫んだ。
「俺も行くって!」
「リヴァルは次の授業の課題、まだ終わってないだろ?」
「今からやっても終わるわけな……って、聞いてないし…。」
颯爽と出て行ってしまった二人。
いずれは話すつもりでいるが、騒ぎになるのは避けたいとはいえ、スザクは少し申し訳ない気がしていた。
生徒の活気にあふれている休憩時間の廊下を二人で歩く。
「ありがとうルルーシュ、助かったよ」
「別に。あんなところで今のお前の生活なんて話したら、すぐに噂になるだろ?」
事情を知っているルルーシュは、時々こうして助けてくれる。
「特区の成功の妨げになるようなことは、出来るだけ避けたいじゃないか」
「うん。リヴァルにもいずれちゃんと話すつもりだけど、今はまだちょっと…」
実質ユフィの護衛のために同居しているわけだが、人の噂とは脚色され一人歩きしていくもの。
そんな面白くもない理由はすぐに隠されてしまうだろう。
…実際今朝のように、それだけでは済まないこともしていないわけではない。
「特区には俺やナナリーも住むんだ。成功してもらわないわけにはいかない」
「うん、そうだね」
最近は日本におけるテロ活動も落ち着いてきていて、残党勢力は追々沈静化されると思われる。
やはり黒の騎士団が特区に参加を表明したことが大きいようだ。
おかげでこうして学校に通う余裕も出来つつある。
(今日は何事もないと良いけど…)
今までも、いくつか危険な目には遭っていた。
植民地支配から突然の特区建設という変化に対する日本人の抵抗も多かったが、ゼロという最大の指導者を失った彼らよりも、今はブリタニア側のユフィや特区に対する反対派の勢力の方が気掛かりだ。
特にしきたりや立場を重んじる貴族間では、ナンバーズのためにブリタニアを棄てた愚かな皇女と批判する者もいれば、テロリストと通じてテロ行為に及ぶのではなどと杞憂を口にする者もいる。
これも人の噂というやつだ。
しかし逆に立場を重んじる貴族としては、皇族であるユフィを表立って害するようなことは起こり難い。
そこが唯一の救いでもある。
自分や黒の騎士団のせいでユフィが悪く言われるのは悔しいが、今は態度と成果で示すしかない。
それにブリタニア姓を捨てたことは、意図していなかったとはいえ、ユフィの真意が地位や権力にないことを証明する一番分かりやすい手段になったはず。
人が悪意を向けて来る分、自分が彼女を守ればいいだけの話だ。
(何かあれば連絡するって約束してくれたし、うん。)
特区に居住を決めた者にも、まだユフィが特区に居住する意図を勘ぐる節はある。
支配者であったはずのブリタニアが何故そこまで出来るのかと、何か裏があるのではないかと。
まだ完璧に信用されたわけではないのだと、ユフィとスザクは思い知らされた。
だから誰かに提言される前に実行せねば、本当の意味で信頼は得られないだろう。
いつだって、ユフィ自身の意志でなければならないから。
日本人とブリタニアの間にあるわだかまりを少しでも取り除くため、ユフィは努力を惜しまない。
いつか笑い合える、その日のために。
だからスザクは、そういう勢力から、批判や中傷、猜疑心から彼女を守るためにまだ軍にいるのだ。
「……やっぱり、プリントの提出っていうのは嘘だったんだね」
呆れたように笑うスザク。
二人がたどり着いたのは学園の屋上。
なるべく人に聞かれたくない話をする時は、いつもここに来るのが二人の間の決まり事だ。
「今日提出しなくちゃならないプリントがあったのは本当だよ。もうとっくに提出してあっただけで」
そう言ってルルーシュは肩を竦めた。
提出先の教師がちょうど先程の授業の担当だったらしく、スザクがぼんやりしていた間に出してきたのだと言う。
職員室とは別の方向にずんずん進んで行くルルーシュを見ながら、なんとなく悟っていたスザクは特に驚きはしなかった。
ただやっぱり、リヴァルに申し訳ない気がしただけで。
「それで?ユフィと何かあったのか?」
「あ、やっぱり聞くんだ」
「俺の親友と義妹のことだ、気になったって良いだろう?リヴァルほどじゃないがな」
冗談ぽく笑うルルーシュ。
本当に何もないと言うと、ルルーシュはその言葉を守るようにこれ以上は追求しなかった。
「特区の方はどうだ?それとまた狙われたりしてないか?」
「最近は随分平和だよ。落ち着いてるし、建設も予定より早く進めそうだってユフィが言ってた」
「そうか。でもまだ気は抜くなよ。せっかくここまできたんだ」
「分かってる。それに今日はコーネリア総督が視察に来る日だから、大丈夫だと思うよ。」
「コーネリアが?」
もうすぐ予定時刻を迎えようとしている。そろそろ到着している頃かもしれない。
「…なぁスザク、特区が完成しても、まだ軍を辞める気はないのか?」
真剣なまなざしでルルーシュは尋ねた。
特区が完成したならば、きっと特区内は平和な世界になるだろう。
少なくとも、そうなる努力を義妹も協力者のゼロである自分も惜しまない。
しかしそうなった時、スザクはどうしているだろうか?
平和だった頃のように、暮らしているだろうか。
特区の完成が近付く程、何故だかルルーシュはそう思って、以前にも同じ質問をしていた。
その時は、「ないよ。やらなきゃいけないことが、まだあるから」と答えが返ってきたけれど。
「…そういうルルーシュはどうなんだい?君は昔ブリタニアを壊すって言っていたけど、特区に入ればもうそれも叶わなくなるよ。ナナリーの居場所になるんだから」
本当に諦められるのか、納得しているのかとスザクの瞳は訴えていた。
幼い頃の境遇を知り尽くした仲だ。簡単に諦めるような性格じゃないことも知っているだろう。
「本当にナナリーが、俺達が平和に暮らしていけるなら、俺はこのままでいようと思う。」
「それで良いのかい?」
だが、ユフィの手を取ったあの時から、俺の反逆は終わっている。
もしも再び俺達の生活が脅かされようとするならどうなるか分からないが、少なくとも俺はユフィの手を取った。
ナナリーの幸せな未来の為に被った仮面を捨てる決意は、もう出来ているのだ。
「あぁ、良いさ。」
その返答にスザクは手すりに寄りかかって、遠くの方を見やる。
「だからスザク、お前はどうする?ナナリーや、ユフィの傍で、ただ平和に暮らす選択肢はお前にもあるはずだろう?」
ひと時の平和のようにただ青い青い空と、ゆっくり流れていく雲を見ながら、やがてスザクは呟いた。
「ナイトオブワンだと?」
会談を終え、別室で妹と二人きりとなったコーネリアは真摯な瞳をしている彼女の顔を見やった。
特区での生活について、スザクについて話していたユフィの口から突然発せられた“ナイトオブワン”の称号。
ユフィの紫がちな瞳には、信じられないといった顔をしている自分が映っている。
「はい。ナイトオブワン、それが枢木スザクの望みです。」
「聞いてほしい。僕は、ナイトオブワンを目指している。」
ルルーシュもまた遠くを見据える親友の言葉を聞いていた。
自分の決意を話し、問いかけたスザクから返ってきた言葉は突拍子もないものだった。
(…いや、考えなかったわけじゃない)
ただ真剣な表情で、けれど真っ直ぐに遠くを見つめたままの告白。
ルルーシュからはその横顔しか窺えなかった。
「……日本人で、ユフィの騎士でもなくなったお前が?」
それは馬鹿にする言葉ではなく、その道程がどれほど厳しいかを表す言葉だ。
「難しいことだって十分理解してる。それでも」
「それがお前の“やりたいこと”、か」
「…馬鹿を言うな。ブリタニア軍人でもトップレベルの選び抜かれた人材しか選ばれないものを、あいつはナンバーズだぞ?しかもラウンズ随一の実力をもつナイトオブワンなどと…」
「それでもお姉様、スザクは本気です。本気なのです」
強情な時の表情をしているユフィを見ると、コーネリアは溜め息をつく気にもならなかった。
こういう顔をしている時は、絶対に譲らないのが妹だ。
自分の言っていることが、どれ程途方に暮れる話なのか懇々と説明してやりたいが無意味だろう。
それくらい重々承知で言っているのでなければ、むしろこんな顔は出来ない。
(だから行政特区の建設など反対したのだ…)
そんな野望を持った者の隣に立つ者として、妹はどれだけ苦労しなければならないのだろう。
だからユフィの騎士は、自分でありたかったのに。
「…枢木スザクは、ナイトオブワンを目指してどうする?力が欲しいのか?それとも権力か?」
「ナイトオブワンになれば、ブリタニアの植民地になっている土地を一箇所だけ選んで、領地として与えられる。僕は、それが欲しい。」
今度はスザクはしっかりとルルーシュを見据えて言った。
「領主になろうって言うのか?」
「与えられる領地にこの日本を選んで、この特区と提携し、やがては世界に自治社会を広げたいと考えている。」
「それが私たちの考えた、ブリタニアの中にいながら、何も壊さず、世界を変える方法です。」
「テロ行為じゃない、誰の血も流さないもっと確かなやり方で、大勢の人々が自分の意志で平和を訴えられるようにしたいんだ。」
親友の告げる言葉は、自分のやろうとした“破壊”とは正反対の理想。
甘い甘い、本当に夢のような理想にルルーシュは一瞬当惑した。
しかしその裏にも、自分の歩んだ道と同じく血を吐くような棘の道があるのは容易に想像できる。
その上で、破壊の上に創造を望んだ自分とは違い、創造された世界の上に更なる創造を望むというのか。
「もちろんその為には、その訴えを聞き入れられる世界にもしなくちゃいけない」
(しかし特区を受け入れたこの世界なら、何かが変わるかもしれない――――…)
「…それが、お前の言っていた“内側から変える”ということか」
スザクは静かにうなずく。
ブリタニア皇女の立場からエリア11を、ブリタニアを変えようとしているユフィ。
それなら自分には何が出来る?
日本人で、枢木首相の息子で、ブリタニア軍人で、ランスロットのパイロットで、ユフィの騎士であった自分に出来ることは?
「ユフィはブリタニアの内側から外側を変えようとしている。だから僕は外側から内側を変えていくんだ。」
そうすればきっと、早くお互いに辿り着ける。お互いの望む世界に。
「そのために僕はブリタニア軍属を続けてる。世界を変えるために。ユフィを、君たちを守るために。」
「特区日本を設立して、それで終わる気は無かったのだな」
「お姉様は、その方が良かったと思いますか?」
そう聞いてきたユフィは、申し訳のなさそうな、寂しそうな瞳をしていた。
「頼りない顔をするな」
小さな頭に手を置いて、くしゃりと撫でてやる。
掌に感じる幼い頃との違和感にずいぶん成長したようだと思った。
まだまだ変わらないと思っていたのに。
「…やはり勿体ないな」
「?」
「まったく、あの男のどこに惹かれたのか」
「!」
「ユフィ、私はお前が何に縛られることも無く、不自由することも無く、ただ幸せに生きてほしいだけだよ」
「お姉様……」
「皇族の重圧やこんな争いごと、政治のいざこざなど、お前には向いていないだろう」
そんな世界はこの子には不必要で相応しくない、そう思ったから力を求めてここまできて、この愛しい妹を守ってきた。
「それでもお前は、自ら背負おうと言うのか?」
――――届けたい声があった。
「はい、スザクと一緒に。…スザクとなら、私は」
――――誰にも届かない声だと思っていた。
「僕は、僕でも、ユフィと一緒なら、出来る気がする……ううん、ユフィだからこそ、一緒に成し遂げたいと思うんだ。」
―――どうしようもない、身勝手な懺悔。
―――我侭にしかならない自分の意志。
「あの人は、それを初めて聞いてくれた人だから。」
「あの人が、生きてもいいんだって教えてくれたから。」
「あの人が勇気をくれるから、自分は生きていける」
妹は、親友は、今まで見たどんな笑顔よりも幸せそうな顔で言うのだ。
「今あの人と過ごす、笑い合える一日一日が、とても大切で愛しいもの。」
「それを守る為なら、どんなことだって頑張れる。」
窓から飛び出したあの日、空から女の子が降ってきたあの日、
一番笑っていてほしい人を見つけたから。
ユフィの手がそっとコーネリアの手を包み込む。
幾度と無く戦場を駆け抜け、歴戦を勝ち抜いてきた武人の手だ。
「だからお姉様、どうかご心配なさらないでください」
「ユフィ…」
「待っていてください、必ず争いの無い優しい世界にしてみせます。そうしたらお姉様、また普通にお話出来るようになりますよね?昔みたいに笑って暮らせますよね?」
この剛毅な手が、誰のためのものかはユフィだって気付いている。
誰のために姉がここまで努力してきたのか、ユフィだって分かっている。
だからこそ、昔のようにただ二人でいるだけで、陽だまりの中で笑い合える未来がほしい。
「だから今度は、私が頑張る番です。コーネリアお姉様」
「だからルルーシュ、君の言ってくれた選択肢は僕が世界を変えられた後の、最高のご褒美なんだ」
「それまで受け取るつもりはない…か」
「うん……ごめん」
そう語る強情な親友を見てルルーシュは、そういえばユフィもこういう性格だったなと思い出していた。
誰よりも理想的な手段で結果を求めて、それがどんなに夢物語だとしても絶対に譲らないのだ。
「どうりで…似たもの同士だったわけだ」
「え?」
「なんでもない」
決して非情な手を使わず、妥協せず、優しい明日へ世界を導こうとしている。
どこまでも甘くお人好しで、自分の利益なんかこれっぽっちも考えてなくて、
いや、
自分のためにとった道が、結局他人までも優しさで包んでしまうような、不思議な二人の人間がいる。
正反対に見えてどこか自分と似ていたはずなのに、決定的に違ったのは“創造”を選んだこと、たったそれだけで、
(あぁ、だからこそ、俺は仮面を捨ててまで賭けてみたいと、)
この二人だからこそ、変えられる何かがあるのかもしれないと、
信じてもいいような気がしたのだ
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