銀時×神楽です。
…の割に神楽は一ミリも登場しませんが。←
神楽は家でお留守番です。
銀さんと新八の買い物風景。
時間軸は江戸の姫と神楽が仲良くなった話の少し後。
ひたすら銀さんと新八が喧嘩してます。
我が家の酢こんぶ姫。
「なぁ新八ィ、わざわざ俺がついてくる必要無かったんじゃねぇか?」
目の前を歩く買い物袋を片手にぶら下げた青年に言うと、彼はメガネをこちらに向けた。
「何言ってるんですか今更。銀さんが一緒に行きたいって言ったんじゃないか…」
新八がそう言うと、買い物袋一つ持たずに後を付いてくるだけを決め込んでいた銀時は、
だるそうにしていた態度を急変させた。
「気色悪ぃこと言ってんじゃねぇよメガネ!寂しいからって勝手な妄想してんじゃねぇよメガネ!」
「妄想じゃねぇよ事実だよ!!あと僕の名前はメガネじゃない!!」
「うるせーメガネアイドルオタク!!カタカナで紹介出来るレベルのキャラのくせに!!」
「関係無いから!!レベルってなんだよ!何の基準なんだよっ!?」
「そんな小せぇ買い物なら荷物持ちなんかいらなかったんじゃねぇかって言ってんだよ!
男ならたまには己の財産賭けたデカイ買い物してみやがれ!!」
「なんかいきなり話戻ってるし!てか、こんな買い物しか出来ないのは儲けない銀さんのせいだよっ!!
これでほぼ全財産はたいてるんだよッ!!」
そこまでギャーギャー言い合ったところで、新八は周囲の視線と買い物という目的を忘れていたことに気付く。
「…まぁ、落ち着きましょうよ銀さん。いきなりどうしたんですか?」
「…別に。」
「別にって…」
急に怒鳴られて、おまけに特に理由が無いなんて(いつものことだけど)傍若無人な銀時に、
新八は一つ溜息をつく。
―…本当にいつものことだけど、だ。
こういう時の銀時は、きっと聞いても素直には吐かないだろう。
ただ、このままでは怒られ損な気がして、どうしても気になった。
八百屋の方へ歩きながら、思い当たる節を頭に浮かべて新八は聞いた。
「神楽ちゃん一人で留守番させてるから、心配なんですか?」
「違ぇよ。アイツなら泥棒の一人や二人や百人ぐらい、一人でなんとか出来るだろ」
「いや、百人はどうだろう…。」
でもはっきり否定は出来ないな…と新八は密かに思っていた。
「あ、でも…」
確か神楽ちゃん、ソファで寝てなかったっけ。僕らが出る時。
「酢こんぶー!」とか、寝言で呟いてなかったっけな。
「おばちゃん、酢こんぶ」
「はいよ」
言いかけた時、駄菓子屋で酢こんぶを買う少年が目に映った。
「あれ、まだ酢こんぶブームだったんですね」
「ん?」
今日も野菜は高いなー、どうせなら肉食いたいよなー。金ないけど。
…と、一人キャベツやらトマトやらをしげしげと眺めていた銀時は顔を上げる。
「ほら、ちょっと前にお姫様が食べてて流行ったじゃないですか。酢こんぶ」
「あぁ…アレね」
思案して数秒、やっと思い出したように銀時はうなずいた。
江戸のお姫様が酢こんぶを食べている、というにわかには信じがたい光景が以前テレビでやっていて、
町でもちょっとした話題になり、主に子ども達の間で酢こんぶがブームになったヤツだ。
「神楽ちゃんが食べてても全然流行らなかったのになぁ…」
「人間ってぇのは、身分の高いヤツとか、見た目の可愛いヤツとかに弱いもんだよなぁ」
言いつつ銀時は半ば哀れむような目で新八を見る。
「…なんで僕を見るんですか。」
「悲しいなぁアイドルオタク」
「悪かったですねアイドルオタクで!お通ちゃん可愛いじゃないですか!!」
「あーわかったわかった。オタクの話はいいよ。現実を見ないオタクの話はいいよ。」
どこか目線をずらす銀時は、人差し指を立てて諭す様に言った。
「例えばな?家で留守番してる女でも、帰った時に何の愛想もなくテレビばっか見てて振り向きもしない
ヤツとな、精一杯笑顔で『お帰りなさいませ、ご主人様』ってな、たとえ作り笑顔でも癒してくれる女が
いるのよ新八くん」
「いや、後半ものすごくオタクな話では…っていうかメイド喫茶の話では」
「ネコミミとか歌って踊ったりとかさ、サービスしてくれるんだぜ新八くん。
そうやって世の中にオタクを繁殖させてるんだ」
「いや、なんであんたそんなに詳しいんですか。それに何の話だよ」
その後も見る見る脱線していく話を区切り、とりあえず新八なりに銀時の話をまとめ、結論を出してみた。
「…つまり銀さんは神楽ちゃんにメイド喫茶式に出迎えて欲しい…と?」
「誰もそんなこたぁ言ってねぇだろ。」
「じゃあ何が言いたいんですかマジで。」
前半のテレビ見てて…って女の子。新八の中で思い当たるのは神楽だけ。
そして後半。前半と違う、強調しているのは自分が帰った時の出迎え方。
総合して判断するなら自分が言ったような事で合ってると思うのだが。
わけがわからない。
そう言うと、銀時がぼそっとつぶやいた。
「同じ酢こんぶかじってても、うちのは可愛さのかけらもねぇよなぁ…あー可愛くない可愛くない」
「?」
まるで暗示の様にブツブツ言っていた。
「変な銀さん…」
そもそも新八が万屋に着くなり買い出しに行こうと言い出したのは銀時の方だった。
まるで丁度良い所に来たと言わんばかりに嬉々として連れ出された。
最初はパチンコか何かで当てたのかと思えば所持金はゼロに等しいし。
珍しく甘味を見ても今はいい、とか言って上の空だし。
「銀さん?」
それまで野菜を物色していた銀時の姿が忽然と消え、
周囲を見渡すと、さっき少年が酢こんぶを買っていた駄菓子屋で、同じように酢こんぶを眺めていた。
あー…なんか、わかった…ようなわかんないような。
―……まぁいっか。とりあえず…
「…あと特売のカボチャ買ったら終わりますから。お一人様一玉で、二人で行った方が得なんですよ」
それで早く帰ろう。
きっとまだ銀時愛用のソファで寝ている、わが家の酢こんぶ姫のところへ。
…なんて、新八は密かに思っていた。