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管理人黒峰の日々の徒然。 主に視聴アニメやらでの叫びなど。なんだかんだうだうだ言ったり空元気でテンション高かったり色々!
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記憶を失ったシャーリー→ルル…と見せかけてシャリパパ大好きな話。(ぇ
(サイト閉鎖に伴い、加筆修正した上での再掲載になります※加筆修正2011/2/10)

バレンタインに向けて亡きパパにチョコを作ってるシャーリーのお話です。
シャリパパが良い人すぎてちょっと想いが高ぶってしまいました…(´p`//)
包容力溢れるお父さんが大好きです…切ねぇ……

シャーリーのルルへの想いがいつか取り戻せますように、という願いも込めて。

シャカシャカと部屋には奇妙な金属音が響く。

音を立てながら、少女は珍しくまとめ上げた、長く伸びる太陽の様な明るい橙色の髪の毛先を、軽い調子で揺らしていた。

「う~ん…」

その表情は真剣そのものだったが、やがて音が止む頃に合わせて懐かしむような笑みをみせた。

 
「よし…こんなものかな?」

少女の笑みの先には、一枚の写真が木彫りの写真立てに入れられて、まるで春の様な光景を写していた―…



淡雪、白く、淡く。



「クリームってこれくらいの堅さで良かったっけ…」

右手に持った泡立て器で、少女はたった今泡立てたばかりの白い生クリームに角を作った。
生クリームの堅さは、この角で確認する。

純白の液体とも固体とも言いづらいそれは、まさにメレンゲの用にふわふわで、触ったことなど無いがまるで雲のようだった。

確かイレブンの食べ物に“ワタガシ”というものがなかっただろうか。
おぼろげに頭に浮かべたそれは、なんとなく似ている気がした。

…ちょっとだけ」

思わずそそられて、小指の先でクリームをすくった。舐めてみる。
…確かに味は生クリームのそれで申し分ないのだが、少々液体っぽいかもしれない。

生クリームは混ぜすぎても美味しくならない。けれど液体では困る。

以外とこの微妙なさじ加減が難しいのだ。
特に混ぜることに必死になって、いつの間にか調節を忘れてしまうタイプの人間には。

「う~ん…会長だったらもうちょっとマシなのかもしれないけど」

少女の通うアッシュフォード学園の、美人なのに奇抜なことで有名な我らが生徒会長ミレイ・アッシュフォードは、意外にも料理が得意だったりする。

たまに行事を思いついてはその腕をふるってご馳走を用意したりもしている。
自分も何回か食したことがあるが、実際並ぶ料理は下手な料理店よりはよっぽど美味しいし、メニューも豊富だ。

…いつもはオジサンのような思考回路で人のことをからかってくるくせに、こういうところで女の子らしい。

「なんだかんだ言っても会長も女の子なんだよね」

 
改めて考えると、少し笑いがこみ上げてきた。
 
自分も、料理が苦手、というまでのレベルではないつもりだ。人並みに出来るつもり。
お菓子なら、もともと分量をきちんと計ってちゃんと手順を踏めば失敗しにくい分野なのだから、それなりに美味しい物も作れる自信はある。

でもやっぱり本通りに作っているから、それ以上美味しいということは滅多にないのだろう。

ミレイの様に、特別得意でもなければ普段からやっているわけでもないのだから、当たり前といえば当たり前なのだが。

…それでもパパは…一番美味しいよ、っていつも言ってくれたよね…」

木彫りの写真立てを手に取る。

写真の中で笑みを浮かべる母の横で、幼い自分を肩車してくれている父親の姿。

日溜まりみたいにあったかく笑っている父親の顔は、自分への深い深い愛情を語っている。
その肩に乗って無垢な笑顔をレンズに向ける自分は、父親への限りない信頼を示していた。

…パパ…っ」

抱えた写真立てのガラスに、パタリと一滴の雫が落ちる。

誰もいない部屋で、一人震える背中。
これからも、自分はこの人に愛されて、守られて、時には怒られて心配されて。
そうやって生きていくのだと心から信じていた日々が、もうこんなに遠いなんて。

無償の愛が、こんなに心地良かったなんて。
親に感謝する機会というのは、学生の身分としては多かった方だと思う。
母の日や、父の日みたいなものもちょくちょくあった。

今の自分の根幹は、結局は両親から成り立っている。親がいなくて生まれてくる子どもなんていない。

けれど、それがあまりに当たり前過ぎて、与えられる愛の深さに気付かぬままの子どもがどれだけいるだろう。

少なくとも自分は、失って初めてその大きさに気付かされた。

失う前に知らなかったんじゃない。
あまりに当然のように愛されてきたから、何も疑おうと、気付こうとしなかった。

失う前に、どれだけ大切かなんて本当は分かっていた。
でも失ってしまった後にどれくらい悲しむのか考えなかった。
これからも一緒に生きてくれると思い込んでいたから。
変わらず愛してくれると、確かにそうだったのだけれど、勝手に甘えていたのだ。
 
きっと、父に言おうものなら“子どもは親に甘えて当たり前だ”と、優しく返してくれただろう。

父は、そういう人だった。

時に恥ずかしくなるくらい、いつも自分を想ってくれていた。

「小さい時、パパと結婚するって言ってたこと…覚えてる?」

問いかけても、返事はない。沈黙が部屋を支配する。
小さい時、夢は父と結婚することだと胸を張っていた。

結婚はパパとママみたいに大好きな人同士がするもの。
それなら私はパパと結婚するのだと、未来に目を輝かせていた。

その夢を父に伝えた時、父は私の頭を撫でた。


“嬉しいな。…でもね”


大きくて温かい手が、何度も何度も撫でてくれた。
遠い遠い日のようで、昨日の事のように思い出せるぬくもり。


“いつかパパよりも好きな人が現れて、その人も君を本当に愛してくれるなら、その人と結婚するんだよ”


そう父は言っていた。
ただ、娘の言葉に嬉しそうに頬を緩めて。

その時の自分は、父ではないことがいささか不満で、そんな人は決して現れないだろうと思っていた。

父は、自分を愛してくれていないのだと。そんなことこそ、決してなかったのに。

「でもね…変なの」

パタ、パタとガラスが濡れていく。

 
「私、…パパよりも好きな人…いたような気がするのに…」

パチ、と生クリームの気泡がひとつ弾けた。

 
「思い出せないの…」

泡立てた生クリーム。こんがり焼けたスポンジに乗せて、苺を飾って、誰かに贈ってはいなかったか。
スポンジに乗せる甘いクリームと瑞々しいフルーツと一緒に、その想いも乗せて。

どうしてか数日前から、そんな気がするのだ。

なんとなく、なんとなくだけれど。

心の奥深いところが、そう言っている気がしてならない。

「何でだろうね……」

そんなことは、もちろん記憶にない。

会長達、生徒会のメンバーや友達と交換するくらいだ。
バレンタインの思い出は、ただ皆で持ち寄って、交換して、お礼を言い合って。

それだけの、そんな思い出だったはずなのだ。
それなのに、胸の奥が苦しくて。

今までだって、憧れるくらいの人は確かにいた。
同級生に、淡い想いを抱いたことぐらいある。
勇気を振り絞る友達の恋だって、応援したりしていた。
それでもいつだって、こんなに苦しくなることはなかったのに。
 

“ねぇ、ルル!甘いもの、平気?

“あの…あのね、良かったら食べてくれない?…その、余っちゃって”


可愛くない嘘。正直に言えない臆病な自分。

いつの間にか、想いが大きすぎて。壊れるのが不安で自信がなくて。

“…いっぱい持ってるから、いらないかもしれないけど…”


両手いっぱいに抱えた可愛いラッピングの箱と袋。たくさんの女の子達からの想い。

それでもあなたは、やさしい瞳をしてくれる。

“べっ、別に変な意味とか無いから…!”


口元で笑って、からかってくるのは誰?

“はいはい


受け取ったのは誰?

“友達…だから…”

“分かってる。…ありがとう、シャーリー”



あぁ、作り笑いじゃない…。私の一番好きな…


…誰なの?

 
誰の笑顔なの…?


「変、だよね…」

2月14日。

この日が近づくごとに強くなる、予感めいたものがある。
ひとつは、大切な人がいたはずだという違和感。

 
ひとつは、決して思い出すことは無いだろうという不思議な確信。

 
…パパよりも好きな人なんて私、会ったことないもの」

もうひとつは、目覚め始めた、新しい想い。

ナリタの慰霊碑のところにいたあの人。

会長の隣にいたあの人。

クラスメイトだというあの人。

何かが、他の人とは違うあの人。
 

…いつか、分かるのかな…?」

少女は拭うこともしなかった頬を伝う温かさを、初めて掬い上げた。

 
…もうすぐ出来るからね」

―…いつかきっと現れるよ…シャーリー…


そんな声が聞こえた気がして少女は寂しそうに笑い、写真立てを傍らに置いた。
 


「ハッピー・バレンタイン、パパ」
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