最終章です。
第三者視点。
いよいよお別れ。そして―…
『サイカイ』
「あ…雨童女…」
ふわふわとよく知った顔が上空から降りてくる。
「あんたたちッ!座敷童の言うこと聞かないで、勝手な真似して!!」
地面に降り立った彼女は赤毛のツインテールを揺らして、びしっと傘の先を鴉天狗たちに向ける。
「だってまたあいつが泣かしたんだ」
「あの子を悲しませたんだ!」
急いで否定するため、雨童女にヘアピンを見せる座敷童。
大切に大切に両手に包んで。
「違うの!私嬉しくて…これ…//」
「ん?…何コレ」
訝しげな顔でヘアピンを見つめた後、雨童女は四月一日に問いかける。
「油揚げの…お礼…」
「ふ~ん………ケチ」
「う;//」
そんなことない、と言う前に雨童女はピンを取って座敷童の髪につけた。
小さな羽根のモチーフが光る。
「…良いんじゃないの?」
和やかに笑う雨童女。
座敷童は、うん、と心の中でつぶやいて、
頬が熱くなった。
「あ…あの…っ//」
「ん?」
「…ありがとうございます//」
今度は泣かずに笑って見せた。
幸せを精一杯表すように。
「…うん」
四月一日も応えるように微笑む。
「…お送りします。戻りましょう」
◆
今度泣かせたら許さないからな!と言い放った鴉天狗達と別れ、出会った場所、池まで戻ってきた。
「そこから帰れるはずです」
座敷童が笛を吹いていた場所。
少し池に飛び出した岩場に立ち、四月一日は池の底を覗きこむ。
「……;」
ただし深く濁ったそこは何も見えなかった。
「気をつけてください」
少し後ろで佇む座敷童が不安げな四月一日に言う。
「…うん。」
ここから帰れるという言葉を疑っているわけではない。
そう思うと少し安心した。
「いろいろありがとう」
「私こそ…///」
「……またね」
「はい…//」
少し俯いた座敷童は頬を染め、その瞳に涙を浮かべる。
ただ、嬉しそうに。
「「あーーーーッ!!」」
「Σ;!!」
またしても怒声が頭上から降り注ぎ、四月一日は先刻までの不安を忘れ、慌てて池に飛び込む。
「あ……っ」
―バシャー…ンッ…
水面に出来た同心円状の波紋が見えなくなる頃、すっかり飛び込んだ四月一日の気配はなくなっていた。
「…」
右手を見つめる座敷童。
そこにぬくもりは残っていなかったものの、感触だけは鮮明に思い出すことが出来る。
ありがとう
その言葉が響いて、胸がいっぱいになった。
「?」
動かない座敷童の顔を、岩場の下にいた雨童女は近づいて覗き込む。
「……;」
―…幸せそうな顔しちゃって…
「…ほら、着物乾かしに行くわよ」
「うん……あっ;!」
「どうしたの?」
「ハンカチ…」
申し訳なさそうに両手に乗っているのは白いシンプルな濡れたハンカチ。
分かりやすい事情に気付いた雨童女は深く溜息をついた。
「…あんたたち、言ったじゃない。また、って」
「ぁ…」
「なら、会えるでしょ」
「……うん///」
また泣きそうな、幸せそうな顔をする座敷童に、良かったと思いながら呆れた風に言っておいた。
「…なんであんなのが良いのかしら、この子は;」
藍の中で天使の羽が、淡く光る。
―…また、会えますように………――――